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最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)1144号 判決 1962年2月06日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人桃井銈次の上告理由第一点について。(省略)

同第二点について。

論旨は証拠理由不備、受託契約準則の解釈の誤および違憲を主張する。

受託契約準則は証券取引法一三〇条に基き証券取引所が設立に際し制定する取引所会員と受託者間の委託売買取引に関する細則を定めたもので〔その制定には大蔵大臣の免許、その変更にはその認可を要する〕あつて、いわゆる普通契約約款の支配する取引においては当事者間に別段の特約のないかぎり当事者がたとえ約款内容を具体的に了知しなくとも当該約款によつて契約したものと認められるべき効力を生ずるものであり、本件受託契約準則(甲三号証の一〇二頁以下)もまた同様と解すべきである。それゆえ原判決が「特段の反証なき限り証券業者と顧客との間の株式売買委託の信用取引については……受託契約準則による意思を有していたと認めるべきであり……」と判示したのは相当である。尤も、原判決挙示の証人森川の証言にも上告人(控訴人)本人尋問の結果にも右準則に準拠する意思の有無については何ら触れたところがないのに原判決が森川の証言ならびに控訴人本人尋問の結果によつてまたこれを認め得る旨を判旨した点は失当であるが、準則はこれに準拠する積極的意思が認められない場合でも原則として当事者間に効力を生ずること前示の通りであるから右の点は「特段の反証なき限り委託取引について当事者双方は準則による意思を有していたと認むべき」ものとした原判示には影響を及ぼさずこの判示は結局正当である。

論旨のうち憲法二九条一項違反をいう点は実質は右に関する単なる法令違反の主張にすぎない。

受託契約準則の効力にふれた下級審判決として、東京地裁昭和二一(ワ)第八一四号、昭和三一年一〇月二三日判決がある。以下判決理由の一部を紹介する。

「(前略)右決定(当時の東京株式取引所受託契約準則一条の規定と、同取引所業務規定一〇〇条に基く決定)は……旧株式の売主に対して不当の利益を与えないため公平の見地から出たものであり、これにより売主をして特に損失を蒙らしめる虞もなく、極めて妥当なものと認められるから、前記受託契約準則にいう特別の契約のない限り、右決定は売主である委託者をも拘束するものである。そして右決定が委託者をも拘束するということの根拠が右の通りである以上、他に特別の事情の認められない限り、これをもつて原告主張のように商慣習であるとか、事実たる慣習であるとか認める必要はない。すなわち、東京株式取引所の取引員に株式の売買を委託する者は、特別の契約がない限り、東京株式取引所定款、業務規定、受託契約準則その他取引市場の慣行に従う旨の合意があるものと推認するのが相当である。(後略)」

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